洛中散歩 上ル下ル
都大路の断面を見る
都大路の断面を見る
2010年04月24日(Sat)
「京都の街は平で碁盤の目である」というのは、概ねそうだというに過ぎない。先々号より話題にしてきたいた太田川のような水路跡の小道は、蛇のようにくねくねしているし、何々大路とよばれる大きな幹線道路でも東西南北にまっすぐに走っていない。碁盤の目がしっかりしているのは、御所の南の市街地の中心部や区画整理された郊外の住宅地に限られている。
「京の街平らなとこで上がり下り」(「誹風柳多留」, 右の図は「画本柳樽」より)というものの、長年京都を徘徊していると、そうとも一概にいえない。北に行く場合に上がり、南へ行く場合に下るのではない「上る下る」がけっこうある。自転車で町中を駆け巡ればよくわかる。若い頃、通勤手段の一部に、自転車を使っていた。松ヶ崎や下鴨の自宅から四条河原町の通勤電車の乗り場まで毎日通っていれば、京都の街が南北に、どのくらい高低差があるか、身を持って体験できる。「行きはよいよい、帰りは怖い」の口で、朝の清々しい空気を呼吸しながら、スイスイと信号をすり抜け、バスを追い越しながら四条まで一走りである。一日働いたあと空腹を抱えて、夕闇の中を自転車で帰路を急ぐのはつらい。だいたい出町あたりで、一息いれてから残りの半分を上るのである。これは、京都人が常日頃口にする上ル下ルに合っているが、南北だけでなく東西方向にも高低差がある。
今の住処のある高野から銀閣寺へ行くのに、東大路をまっすぐ百万遍まで下りて、そこから今出川通りを東に向かって上るより、高野から南東に疎水沿いの散歩道を行く方が楽である。この経路なら上り下りがほとんどない。北の高い所から、高い所を通って東の高い所へ行くだけである。実際、疎水は東の高い所から北へと流れているのである。
このように京都の川がすべて、鴨川のように真北から真南へ流れているわけではない。自動車に乗っている人は、出町から川端通りをまっすぐ北へ高野川沿いを走っているつもりでいるが、そうではない。北東へかなりそれてしまい、洛北高校まで行くのには遠回りである。同じことは、出町から賀茂川の西側の筋(下鴨西通)を走ると、植物園の前に出てしまい、洛北高校へはこれまた遠回りである。高野川は南西に流れ、賀茂川は南東に流れている。
出町で高野川と合流した鴨川もまっすぐ南に流れているわけでもない。南北に平行に走っているはずの河原町通と寺町通が五条通で交差する。鴨川の流路は四条通から少し西に向きを変える。河原町通は鴨川に並行して南に下がるが、寺町通はまっすぐ南下するから、五条通の直前で、西に向きを変えた河原町通にぶつかってしまうのである(右の地図参照)。
前置きはこのくらいにして、京都の市街をぐるりと一回りする道路の高低差を測って、断面図に表してみた。走ったコースは次の通りである。
北大路と東大路の交差点高野から出発して、東大路を九条まで下がり、九条通を西へ西大路までいく。ここから西大路を上って、金閣寺前を右に折れて北大路を東へ進み、もと来た高野に戻った(上の地図中の赤線で記したコース)。
全長22.1Km 高低差74.7m。この行程に沿って標高をプロットしたのが次の下の図である。2つの山がある。高野から祇園まではなだらかな下りであるが、祇園石段下から急に上り始める。五条を過ぎるとアップ・ダウンを繰り返しながら、九条通まで下る。鴨川を東山橋で渡ってからは西大路までゆっくりと下り、西大路九条の手前で「底」に着く。帰りは西大路をただひたすら登ることになる。この登りは、金閣寺前を右折し北大路に入ってから最もきつくなる。船岡山の北麓を通過するからである。この急勾配は北大路千本の直前でピークとなり、後は高野までイッキに下る。

この図(クリックして拡大)では横軸の距離と縦軸の標高の縮尺が約50倍も違うために、上り下りの勾配が誇張されていて、実感とはかなりずれている。縦軸と横軸の縮尺を同じにして描くとすれば、標高差74.7mを5cm程度にすると、横幅の距離は14.8mにもなる。これを筒状にして、廻り燈籠のようにくるくる回して眺めてみれば、実際に近い感じが得られるだろう。直径が約4.71mと云うバカでかい筒になってしまうが、この中に入って周りを見渡せばどんな風だろうか。
右の写真はその模型である。Aが縦横の縮尺を一致させた直径4.71mのミニチュア、BとCは縦軸の標高差をそれぞれ20倍と50倍、強調したものである。
この筒の中に入って周りを見渡した時に目にする風景画をパソコン上に作ってみた。つまり、少しずつ動いて360度を眺めるのパノラマ写真をつくった。上図のA, B, Cをクリックすれば、それぞれに対応した画像が現れので、興味があれば筒の中に入ってみて下さい。
[補] 都大路断面制作ノート
道路に沿って断面図を描き、パノラマ写真に仕上げるのに用いた小道具を紹介する。その使い方の詳細につては別記事に備忘録として絡めた。
1) まず、道路上の標高と出発点からの距離を得るのに、国土地理院の「電子国土ポータル」サイトで試験公開されている電子国土基本図を利用した。縮尺は2, 500分の1で、右のサンプル図に示したように道路上のあちこちに標高が記されている(青丸)。右上2段目[使い方]の左にある[計測]ボタン(赤丸)を押すと二点間の距離を測定することができる。この
地図で本文中に記したルートに沿って距離と標高のデータを全部で168ヶ所で集めた。そのメモが右の写真である。
2) 収集したデータを、「Matlab」という数値計算ソフトを用いて処理して、ルートに沿った断面図を得た。その出力結果を下に示した。

3) 断面図の縦軸、横軸の縮尺をいろいろ変えたり、場所等を断面図に書き込んだりするのに「PowerPoint」のスライド作成ツールを用いた。作成したスライドは、画像ファイル(JPG : Joint Photographic Experts Group)として保存した。保存した画像の一つは下の横長の画像である。

4)上で得た一枚の断面図の両端を貼付けて、筒にして内部から眺めるために、 Ryubin's Flash Panorama Laboratoryが提供しているPanoCylinderFlashのv20を使っている。このソフトでは、水平方向に360度回転するパノラマ写真を表示するのにたった1枚の画像ファイルを準備すればいいだけである。ということは、出発した所からぐるりと一回りして、もときた所に戻るような画像があればそれでいいということであるから、今の目的にうってつけのソフトである。それが、本文の3つの円筒の写真中のA, B, Cをクリックして出てくるものである。

今の住処のある高野から銀閣寺へ行くのに、東大路をまっすぐ百万遍まで下りて、そこから今出川通りを東に向かって上るより、高野から南東に疎水沿いの散歩道を行く方が楽である。この経路なら上り下りがほとんどない。北の高い所から、高い所を通って東の高い所へ行くだけである。実際、疎水は東の高い所から北へと流れているのである。
このように京都の川がすべて、鴨川のように真北から真南へ流れているわけではない。自動車に乗っている人は、出町から川端通りをまっすぐ北へ高野川沿いを走っているつもりでいるが、そうではない。北東へかなりそれてしまい、洛北高校まで行くのには遠回りである。同じことは、出町から賀茂川の西側の筋(下鴨西通)を走ると、植物園の前に出てしまい、洛北高校へはこれまた遠回りである。高野川は南西に流れ、賀茂川は南東に流れている。

前置きはこのくらいにして、京都の市街をぐるりと一回りする道路の高低差を測って、断面図に表してみた。走ったコースは次の通りである。
北大路と東大路の交差点高野から出発して、東大路を九条まで下がり、九条通を西へ西大路までいく。ここから西大路を上って、金閣寺前を右に折れて北大路を東へ進み、もと来た高野に戻った(上の地図中の赤線で記したコース)。
全長22.1Km 高低差74.7m。この行程に沿って標高をプロットしたのが次の下の図である。2つの山がある。高野から祇園まではなだらかな下りであるが、祇園石段下から急に上り始める。五条を過ぎるとアップ・ダウンを繰り返しながら、九条通まで下る。鴨川を東山橋で渡ってからは西大路までゆっくりと下り、西大路九条の手前で「底」に着く。帰りは西大路をただひたすら登ることになる。この登りは、金閣寺前を右折し北大路に入ってから最もきつくなる。船岡山の北麓を通過するからである。この急勾配は北大路千本の直前でピークとなり、後は高野までイッキに下る。

この図(クリックして拡大)では横軸の距離と縦軸の標高の縮尺が約50倍も違うために、上り下りの勾配が誇張されていて、実感とはかなりずれている。縦軸と横軸の縮尺を同じにして描くとすれば、標高差74.7mを5cm程度にすると、横幅の距離は14.8mにもなる。これを筒状にして、廻り燈籠のようにくるくる回して眺めてみれば、実際に近い感じが得られるだろう。直径が約4.71mと云うバカでかい筒になってしまうが、この中に入って周りを見渡せばどんな風だろうか。

この筒の中に入って周りを見渡した時に目にする風景画をパソコン上に作ってみた。つまり、少しずつ動いて360度を眺めるのパノラマ写真をつくった。上図のA, B, Cをクリックすれば、それぞれに対応した画像が現れので、興味があれば筒の中に入ってみて下さい。
[補] 都大路断面制作ノート
道路に沿って断面図を描き、パノラマ写真に仕上げるのに用いた小道具を紹介する。その使い方の詳細につては別記事に備忘録として絡めた。


2) 収集したデータを、「Matlab」という数値計算ソフトを用いて処理して、ルートに沿った断面図を得た。その出力結果を下に示した。

3) 断面図の縦軸、横軸の縮尺をいろいろ変えたり、場所等を断面図に書き込んだりするのに「PowerPoint」のスライド作成ツールを用いた。作成したスライドは、画像ファイル(JPG : Joint Photographic Experts Group)として保存した。保存した画像の一つは下の横長の画像である。

4)上で得た一枚の断面図の両端を貼付けて、筒にして内部から眺めるために、 Ryubin's Flash Panorama Laboratoryが提供しているPanoCylinderFlashのv20を使っている。このソフトでは、水平方向に360度回転するパノラマ写真を表示するのにたった1枚の画像ファイルを準備すればいいだけである。ということは、出発した所からぐるりと一回りして、もときた所に戻るような画像があればそれでいいということであるから、今の目的にうってつけのソフトである。それが、本文の3つの円筒の写真中のA, B, Cをクリックして出てくるものである。